別冊企画：「弟子の心得」弟子道その４　話を聞くよりも大事なこと

・弟子道　その１「まねびと高座百編」 ・弟子道　その２「信じることで見えてくる世界が変わる」 ・弟子道　その３「変なロープレで自分の能力を引き出す」

真面目よりも大事なこと

その２の続き「一番のお客様になる」道のりです。 弟子入りして半年の頃、師匠に怒られました。 「お前が真剣なんは、わかる。けどな。そんな難しい顔して人の話を聞くな。 眉間にしわ寄せて、口がへの字になってる。不細工やぞ！！ お前が、難しい顔をしていたら、勘三郎～！って怒鳴るからな。」 （中村勘三郎さん、ごめんなさい。失礼ですよね。） ひえー、 言われたときは、全然自覚がなかった。 そんなつもりはなかったんです。 でも、話を聴くのに真剣になるあまり、無意識のうちに難しい顔になってしまっていたようです。 全然、一番のお客様になれていなかったのです。 最初教えてもらったこと、 「話の内容、聞かなくていいから、とにかく笑顔でうなずけ。」 です。 ええー。 まさかです。 聞かなくていいのかよ・・・。 でも実践しますよ。私。 その代わり、あてないでね。お願い。 答えられないから。 そうです。 「話の内容は聞かずに、笑顔でうなずく。」こと半年。 ようやく勘三郎と呼ばれなくなりました。 実は、実践してるうちに、 笑顔でうなずきながらも、ちゃんと話が聞けるようになっていきました。 この訓練は面白かったです。 あと、もうひとつは、 「離見の見」を養うことができたのだと思います。

「離見の見」 世阿弥の「花鏡」のなかで、「観客の見る役者の演技は、離見（客観的に見られた自分の姿）である。「離見の見」、すなわち離見を自分自身で見ることが必要であり、自分の見る目が観客の見る目と一致することが重要である。

人の前に立ち続ける仕事というのは、いつどこで、自分が見られているかわからないもの。 いつも、自分の姿というのを他人が見ている目で見れるものを持っていなければならないということ。 仕事で人前に立つときにも、もちろん。 これがないと、客観的な自分をみれません。 そして、人前に立たないときも、 何かを伝える側の立場にある人間として、間違いなく必要になります。 笑顔でうなずくことからも、 腕を磨くことをさせてもらいました。  

シャンパンが好き

師匠の好みを知ろうと日々調査していると 「師匠は、なんでこれが好きなのかな？」とか 「なんでこれがいいんだろう？」 わからないけど、これがいいというのだから、私も試してみよう。 それで、できれば、同じ気持ちになってみたい。と思ってしまった訳です。 それで私がはまってしまったのが、 シャンパーニュ。 師匠は、朝シャンといって、朝シャンプーではなく、朝からシャンパーニュほど大好きなのですが、 当時の私はあまりそのことがわからなかったのです。 まぁ先日ようやく成人したくらいの年齢でしたからね。お酒もなんもわからないのです。ましてやワインの世界など。シャンパンなんてホストクラブの飲み物だと思っていました。またはシャンメリーか。 先輩から年末年始の挨拶の手土産どうすればと迷ったら師匠には、シャンパンで大丈夫。 スタンダードで、はずさないシャンパーニュの銘柄「ブーブクリコ」だったら問題はないから。と言われたもののを何度聞いても覚えられず、メモも間違えたくらいです。 師匠はシャンパンが好きすぎるのに、私がこれではいけない。 どうしてシャンパンシャンパン言うのかを調査したくなったのです。 まずシャンパンは「シャンパーニュ」というそうだと教えてもらい そのシャンパーニュがどれほど美味しいもので価値があるものなのかを知りたくて、 シャンパーニュ教室に通うことに。 講座は、32000円。 なかなかいい出費です。 しかし、得たものは大きかった。 その歴史からも深いものであることが知ることができましたし、 なんせ、シャンパーニュの栓、開けるのがめっちゃ上手になりましたから。 （栓の開け方は、講座で習ったわけではないのですが、つまり、かなりの本数飲んだからね） なので、控え室でシャンパーニュ開けること師匠が一番好きなことだったのですが、 栓を開けるのは師匠。弟子はなかなかその機会がなかったけれどなんかの機会があって、あけさせてもらったときに、上手い！ と褒めてもらえました。 教室に通っていたことを師匠にはいちいち話しませんでしたが、素晴らしい世界を教えてもらったと思っています。 直接仕事に関係のないことでも、相手を理解するために自分も同じ立場に立つ。体験してみる。 このようなことも時には必要ではないかと思います。 わかったような気になっていても、知っているふりをしても仕方がないですからね。   [su_note note_color="#fffaf0" text_color="#333333" radius="3" class=""]ちなみに、師匠がそこまでシャンパンシャンパン（ほんとは「シャンペン」と言ってました。）と言っていたのはセレブの証だからだと思います。安くても５０００円くらいするのですが、シャンパーニュ教室の先生がおっしゃるには、ワインのプレゼント何を差し上げるかわからなかったら、同じ予算ならシャンパーニュがいいですよ。ということでした。品質、味とも安定していて好みというよりはシャンパーニュという概念が幅広すぎないので、外さないのだそうです。好みによらないということですね。 それも勉強してわかったことですが、シャンパーニュはフランスが定めた法律にのっとって名乗ることができるワインの名称です。ぶどうはシャンパーニュ地方のものに限るとか、その製法とか、最低何年は寝かせるとかも。使って良いブドウは３種類など......製法からぶどう品種、土地まで定められているのです。なのでフランス政府お墨付きですね。 シャンパーニュ教室では、シャンパーニュ製法で作られたものと、作ったワインに泡を入れたりした泡のワインを比べることなどもしました。飲み終わったグラスに残る香りが違います。シャンパーニュ製法のものは香りがグラスに残ります。が、いわゆるスパークリングとか呼ばれるものの泡投入型のものは、何の香りも残らないのです。これが証拠に味わいの深みや余韻、まったく違うんですよね。 だからその差が値段でもあるわけです。そして、シャンパーニュは栓を開けて数日経っても、しっかり泡が残っています。炭酸ドリンクでも数時間でダメになりますよね。あれと同じことが起きているのです。 しれば知るほど、シャンパーニュだけでなく、ワインという飲み物がいかに丁寧に作られているものなのか知ることができ、ワインの世界を楽しむようになりました。 こうして今や、ワインを自宅に２００本余りストックするようになったのです。 今なら、もっともっと素敵な美味しいシャンパーニュやワインを師匠にご紹介できるのにと思います。当時はそんな余裕（金銭的にも。時間的にも）ありませんでしたから。 きっかけは師匠のせいにして、ワインを収集したり楽しんだりする言い訳にしております。笑[/su_note]

いちいち言わない

私は、この講座に通っていることを師匠には特に言いませんでした。 シャンパーニュでいえば、勉強した私は、どう考えても知識は私の方が知っているかもしれません。 いや、なんでも師匠は、知ってるんです。 どんな世界でも師匠と呼ばれる偉人たちは、 物事のコツをつかむのが得意です。 だから、どれほど忙しくって、 どこでそんな情報を仕入れてくるんだといつも思いますが、 必ず、弟子よりも何事も知っています。それは人生倍以上生きているとかそういうことではないのです。 ちょっと勉強したり、過去経験があったりすると、それを言いたくなります。 でも、それをしたら、大失敗です。 「師匠には、自分からいちいち何か言わない。」 私はこれが基本だと思っています。 「師匠に聞かれたときだけ答える。」 自分がこう思うとかああ思うとかは、師匠の前では、すべていらないこと。 そんなこと話したら、師匠の時間を無駄にしてしまいます。 そんな話は、師匠にとってどっちでもいいんです。 弟子が成長しているかどうか、師匠は話さなくても、見ていたら、わかります。 だから基本は、 自分は、自分が聞かれたときだけ、話す。 聞かれるタイミングを待つ。 もし、聞かれたら十分に答えられるように準備する。 準備しても準備したことをいちいち言わない。 たとえば、 自分が出身の地元に師匠が来たとき、 「この辺でどっか美味しいところないかー？」 と聞かれたら、師匠の好みからいくつかいいところをピックアップしておく。 できれば、 お店の人にもあらかじめ伝えておく。 行かないかもしれないんだよ。 それでもそうするんです。 そして、行かなかったとしてもそのあと、また自分が訪問して、お礼を伝えるんです。 それが、準備。 いちいち、言わない。  

「弟子の心得」弟子道目次

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